2019年5月28日火曜日

一番好きな季節

ラマダンの季節の飾り(ファヌース:ランタン、日本で言えば提灯)
エジプト人に一番好きな季節はいつかと聞かれ,初夏か晩秋かなあと答えたところ、(草木や花が芽吹き、彩りが日に日に鮮やかさを増す夏の初め,ああまた新しい命が始まるのだという感慨を覚え、そして秋の終わりには、色が燃え尽き、しまってあった古いセピア色の写真の静止画像を見るように、微笑ましいけれども何故か哀しい愛おしさが込みあげてくる・・・)あまりピンとこなかったようです。やはり日本人にしか実感できない感情のようです。

風土の、人に与える影響は大きいですね。和辻哲郎は日本で、イブン・ハルドウーンは北アフリカで生まれ育ったからこその、似て非なる風土論が生まれるのも当然です。

日本的季節感の今ひとつ伝わらなかったそのエジプト人に、ではあなたの「一番好きな季節は?」と聞くと、それは「ラマダンの季節」だ、という答でした。思いもよらない答でした。

何でラマダン?それって季節じゃないでしょう、・・・という疑問はグッとこらえ,その理由を聞いてみました。

すると、「だって、人がみんな優しくなれる」から、と言うのです。
とても驚きです。その発想に、というだけではなく、ラマダンのとらえ方そのものに少し偏見があったかなあ、というか,改めて、生活に根ざしたイスラムはまだ厳然と生き残っているんだということを思い知らされたからです。

何せ街中を歩いていると、口八丁手八丁で強引な呼び込みがあり腕を引っ張られたり、ひっきりなしにタクシーに声をかけられ、乗り込むとメーターが無い,壊れて使えない、すぐに異常に跳ね上がる改造メーターなどで、毎回料金交渉で言い合いになる。空港タクシーはさらに酷く,悪びれる素振りも見せず平気で2倍3倍の値段をふっかけてくる。お土産屋に行けば,ツラーッと10倍,20倍の値段をふっかけてくる(支払い段階で単位をごまかしてくる人すらいる。1ポンドを1ドルとごまかす。1ドルは18ポンドだから,つまり、いきなり18倍の値段にすり替わる!)

さすがに2年以上住んでいると,騙されることは大分少なくなってきましたが、まだ、急いでいたり,うっかり気が緩んだりしていると、すぐさま、あっさりぼったくられてしまいます。

しかも、定価というものが存在しない買い物や取引は、毎回のその価格交渉のやりとりで気が重くなります。ラマダンだってその日常は大して変わりはありません。日本からの友人を連れて行ったピラミッドでも、ラクダ引きやお土産屋は、まず10倍のふっかけからスタート。ハンハリも同じ、タクシーも2倍のふっかけから・・・でした。

何よりも、ラマダン時期は,テロ行為が頻発するというので、立ち入り禁止・注意区域の設定、夜間外出・夜間移動の禁止の措置が執られます。日本大使館や関係諸機関からも,何度も念を押して安全確認、安全義務の励行が呼びかけられます。仕事や買い物にも出かけなければならないので、このラマダンの季節は、本当に神経を使います。

さらにもうひとつ、この時期はアルコールの販売は一切禁止です。禁止ではなく自粛?かもしれません。酒屋はまるまる1ヶ月閉店です。エジプトに来て1年目のラマダンは,買い置きが少なくて大変困りました。さすがの3年目は、潤沢です(^^)。ついでに、酒屋はコプト教徒が経営しているので、外から見えないように店の奥に隠して豚肉を売っている店もあります。つまり、ラマダンになると希少の豚肉も買えなくなる。

というわけで、ラマダンの時期というのは,自分にとって窮屈で,禁欲的で、安全面で常に神経をとがらせていなければならない、やっかいな季節というイメージが出来あがっていました。

イスラム教徒にとっても、夜明けから日没まで一切の飲食が許されない,修行のようなしきたりだと思っていました。飢えや渇きを堪え忍ぶことによって,貧しい人たちや弱者への共感、そして生きることへの感謝を噛みしめる1ヶ月間である、という説明は何度も聞いています。

しかし、「人が優しい気持ちになれる」というとらえ方は,とても新鮮に聞こえました。ホントかよ,と思い、騙されぼったくられた,思い出すと今でも悔しい数々の経験がまざまざと甦るとともに、一方で、乗り物や街角でさりげなくサッと老人の手を支えたり、物乞いに対して歩きながら間髪入れず5ポンド札を渡して通り過ぎる人、そしてお祈りの時間になると、通行人が行き交う道路にお祈り用のマットを敷いて,メッカの方に向かって黙々とお祈りを唱え始める敬虔な人の姿も、数多く見かけてきました。

イスラムの施し、喜捨(ザカート,サダカ)の精神は、日本で言うと「功徳」が一番近いと思うのですが、ラマダンの意義や行いや精神性ではなく、「優しい気持ちになれる」という感情論に、何故か今回,非常にインパクトを与えられました。ラマダンを3回経験し、やっと偏見なくイスラムに根ざした生活感覚が分かりかけてきたのかも知れません。

日中の街中の食堂街、ファストフード店
表通りの臨時屋台

日中食べる人がいないので、食堂街やファストフード店、屋台は全部閉まったままです。夕方の日没後から店が開きます。

スーパーは開いてますが、日没断食明けの前、大体5時頃閉店します。自分たちの飲食の準備を始めます。








今年だと断食明けは18時45分くらいですが、それから一気に飲んで食べてが始まるのですが、延々と、夜中の1時2時までやっています。

ラマダンの時期は小さい子どもも1時2時まで大人に交じって飲んだり食べたり、遊んだりしています。